研究課題
本研究では、CCG等の形式文法理論において意味表示の記述に型付きラムダ計算を用いることに着目し、同じく型付きラムダ計算を用いるプログラミング意味論の手法であるモナド(monad)を用いることで、自然言語の文脈・談話情報を統一的な枠組みで記述することを目指している。2011年度の研究内容は、主に1)モナドによって扱える文脈・談話情報の拡大、2)モナドによる扱いはまだ知られていないが、形式意味論にとって難問とされてきた言語現象を扱える他の非古典論理の研究、3)教科書の執筆、からなる。1)「フォーカスとonlyの意味論」「日本語のト・ヤ・カによる名詞句等位接続」の問題において、モナドによる定式化がブレークスルーをもたらしうることを示した。前者は継続モナドにより、後者は非決定性モナドと同型の、複数形モナドによる。これらの研究により、モナドによる言語理論の一般性が示されつつある。2)部分方向性組み合わせ論理(SDCL)、推断組み合わせ論理(ICL)、高階依存型理論(CoC)等の論理体系を拡張し、統語論のwh移動の問題、意味論の前提の問題、範疇文法と論理体系のカリー・ハワード同型の問題等を解決した。これらの拡張とモナドは独立した関係にあり、これらの体系上でモナドを定義することが可能であると思われるが、詳細は来年度以降の課題となる。3)東京大学出版会から「数理論理学」の教科書を出版した。言語科学者が読める数理論理学の教科書にはこれまで適切なものが存在しなかったが、この本を活用することによって学生の数理論理学的手法に関する基礎力を養成し、分野の地盤固めがなされることが期待できる。
2: おおむね順調に進展している
計画当初に予想したように、モナドによる意味論の汎用性について徐々に示しつつある。一方で、本年度に追究した種々の非古典論理体系の有用性は、モナドによる意味論のベース論理自体を拡張できるようにする必要性を示唆している。また、教科書の執筆に当初の想定よりも時間が掛かってしまった。
モナドによる意味論の理論的基盤となる「メタλ計算」についての論文を完成させ、圏論による意味論と、それに対する健全性・完全性の議論を確立する。また、ベースとなる論理体系を単純型付きラムダ計算に限らず、ランベックλ計算や高階依存型理論からもメタλ計算が構成できるように一般化し、言語科学における型理論的アプローチ全般に適用可能な意味の理論として提示したい。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (9件) 図書 (2件)
第14回プログラミングおよびプログラミング言語ワークショップ(PPL202)論文集
巻: (CD-ROM版)
Proceedings of the Eighth International Workshop on Logic and Engineering of Natural Language Semantics (LENLS8)
ページ: 80-93
ページ: 139-152
New Frontiers in Artificial Intelligence (JSAI-isAI 2010 Workshops, Tokyo, Japan, November 2010, Selected Papers from LENLS7)(Takashi Onoda, Daisuke Bekki, Eric McCready (Eds.))(Springer, Heidelberg)
巻: LNAI6797 ページ: 16-29
10.1007/978-3-642-25655-4_3
Logical Aspects of Computational Linguistics (6th international conference, LACL2011, Montpellier, France, June/July 2011 Proceedings), Springer
巻: LNAI6736 ページ: 190-204
10.1007/978-3-642-22221-4_13