研究概要 |
現実的な環境条件下で,かつ再現性のある実験条件の音響心理実験によって,接近報知音に求められる音量に関する検討を行った。実験では,被験者にバイノーラル録音された環境音と接近報知音を提示し,提示された環境下において自分が望む音量に接近報知音の音量を調整するよう求めた。被験者は,右斜め後方2mの位置に存在する車両から発せられたと想定した接近報知音について,「考え事をしていたり,人と話していたりしていても車の存在に気づくために必要なちょうどいい音量」と「与えられた環境下で最低限聴こえる音量」の2種類の基準での音量調整を行った。本実験で評価対象とした接近報知音は,「エンジン音(Eng)」,「広帯域音(Bbs)」,「クラクション(Horn)」の3種類である。各音源は無響室内でダミーヘッドの右斜め後方2mの位置に設置されたスピーカから再生され,バイノーラル録音された。環境音刺激は,4種類で,いずれも福岡市内の歩道上でHATSを用いて録音された。 また,このような評価は,評価者の属する文化に依存する要因も影響する可能性があり,自動車という国際的に流通する製品の音に関する評価であることを考えると,国際的な比較検討が不可欠である。そこで今回,日本人被験者のみでなく,ドイツ在住の被験者を対象とした実験も行った。 その結果,環境騒音レベルによって接近報知音に求められる音量は異なり,一律の音量で設定されるべきではないことが示唆された。また,最適聴取レベルと検知レベルの差が10~20dB程度で,接近報知音の特徴によることが確認された。結果から,静かな環境でちょうどいいと評価される音量では,その環境より環境騒音レベルが10dB程度以上高い環境では聴き取ることができない恐れがあることが想定された。
|