研究概要 |
交付申請書「研究実施計画」記載の通り、計画1年目にあたる今年度は、知覚表象が無意識状態から意識状態に移行する瞬間の脳活動を計測した。共同研究先である愛知県・生理学研究所に赴き、時間分解能に優れた脳磁計を用いて十数名の実験参加者の脳反応を記録・解析した。 従来の先行研究においては、視覚的認識の場合、その意識的視覚表象が最初に生じる場所については二通りの見解が併存していた。1つは大脳における視覚情報の入り口で、後頭葉の一次視覚野と呼ばれる場所(Tong and Engel 2001, Nature 411:195-9, Haynes et al. 2005, Nature 438:496-9)、もう1つは一次視覚野よりもより高度な視覚情報処理を行うとされる側頭葉の腹側系高次視覚野である(Leopold and Logothetis 1996, Nature 379-549-53)。従来の研究では時間分解能に制限のかかる機能的核磁気共鳴画像(fMRI)という手法で脳活動を計測していたため、上記2つの場所のどちらで先に意識表象が生じるかについては見解が分かれていた。今回、時間分解能に優れた脳磁計を用いてこの問題を検討したところ、意識表象の最初の発生場所は腹側系の高次視覚野であることを示す証拠を得た。これらの結果は、従来の研究の問題点であった時間分解能という制限をクリアする形で得られた証拠であるため、「意識は脳のどこで生まれるか?」という問題に一石を投じた成果であると言える。これらの結果は論文としてまとめ、現在専門誌において査読中である。
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