研究課題/領域番号 |
22680022
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
野口 泰基 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (90546582)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 認知科学 |
研究概要 |
本研究の目的は、視覚情報が脳内で無意識状態から意識状態に移行する際の脳活動を空間的・時間的観点から同定することである。交付申請書に記載の通り、計画3年目にあたる今年度は以下の2つのアプローチを行った。 1. 意識化される情報(視覚刺激)の内容を高度化・複雑化させるアプローチ。 2. 視覚刺激が持つ輝度・色・位置など種々の情報に注目し、神経回路の中でそれらの情報がどのように処理・統合・表現されるのかという問題の解明。 1に関しては前年度に引き続き、高次な視覚情報(ヒトの顔など)が無意識状態において脳内でどのように表現(エンコード)されているかを、主に脳波計測を行うことによって調べた。その結果、顔や視線といった高次な視覚刺激は、ガボールパッチのような単純な視覚刺激と異なり、無意識状態でもその情報の多く(顔の向きの上下・視線の左右や移動方向など)が脳活動に影響を与えていることが示された。今年度はこれらの成果を追加実験・統制実験と共に論文としてまとめ、学術雑誌に発表した。さらに人の体の画像・道具画像・家画像と言った様々な視覚刺激(先行研究において「高次視覚刺激」として定義されている刺激)にも研究対象を広げ、それらの無意識・意識的な知覚に関わる脳活動を測定した。 2に関しては特に視覚刺激が持つ色情報と形情報の統合(意識的認知)の仕組みを研究した。従来、この2つの情報の統合には、対象となる視覚刺激への注意が必要であり、そのため高度な意識処理の中で情報統合がなされていると考えられてきた。だが今年度我々が行った研究により、注意を必ずしも必要としない色情報と形情報の(半自動的な)統合メカニズムがあることが示された。これらの結果は、意識的認識の新しい側面(高度だが半自動的な処理様式)を示すものであり、意識処理・無意識処理間の境界線を規定する意味で重要な発見であると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最大目標である「無意識的な神経活動が、意識的な表象に変化する瞬間の脳活動を記録・観察する」という部分は、単純な視覚刺激の意識化プロセスに関しては、既に達成しているため。今年度はこの点に関して行った一連の研究を学術論文としてまとめ、専門誌に公開した。この知見があらゆる表象に一般化できるかを調べるのが今後の主な課題であり、おおむね予定通りに進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
1~3 年目に行った実験により、視覚情報が脳内で無意識状態から意識状態に移行する際の基本的な流れは「腹側系高次視覚野 → 一次視覚野(V1)→ 全脳(頭頂葉・前頭葉を含む)」という順番であることが示された。今後はこの流れをさらに検証するため、以下の2つのアプローチを行う。 1つ目は、意識化される情報(視覚刺激)の内容を変えることである。1年目はガボールパッチ(白黒の縞模様)を用いたが、2年目はヒトの顔や視線、3年目は顔以外の高次刺激(家・道具など)を用い、徐々に意識化される情報の内容を高度化・多様化させてきた。それにより「高次視覚野 → V1 → 全脳」という意識化の神経処理の流れが、あらゆる視覚情報に共通の流れであるかを検討した。今後は新たなアプローチとして、記憶や情動との相互作用に注目する。たとえば見慣れた文字の場合、その文字の視覚表象は記憶貯蔵庫の中に保存されている。つまり文字を意識的に認識する場合、脳はどこかの段階で記憶貯蔵庫にアクセスすることになる。従来は意識化対象の刺激として、記憶の影響が小さい一般的な物体刺激を使っていたが、今年度は記憶の想起を明確に伴う刺激(文字や知人の顔など)を用いる。その時「高次視覚野 → V1 → 全脳」という意識化の神経処理の流れに、どのような変化が生じるかを検討する。またこれと関連して、情動価をもつ刺激(表情付きの顔など)の意識化の流れも検討したい。 また2つ目のアプローチとして、今年度(3年目)より始めた視覚情報の統合の仕組みに関しても、さらに研究を継続したい。特に色情報と形情報に注目し、そららが無意識処理から意識処理に移行する段階でどのように統合されるのか、その過程を心理学・神経科学的な手法で解明することを目指す。
|