本研究の目的は、視覚情報が脳内で無意識状態から意識状態に移行する際の脳活動(意識化プロセスにおける脳活動)を空間的・時間的観点から同定することである。交付申請書に記載の通り、計画4年目にあたる今年度は以下の2つのアプローチを行った。 1. 意識化される情報(視覚刺激)の高度化 意識化のプロセスを調べる対象刺激として計画1年目はガボールパッチ(白黒の縞模様)を用いたが、2年目はヒトの顔、3年目は顔以外の高次刺激(家・道具など)を用い、徐々に意識化される情報の内容を高度化・多様化させてきた。4年目である今年度は、道具などの高次刺激の意識化プロセスをさらに調べ、結果を論文としてまとめた。また新たに情動価をもつ刺激(表情が変化する顔刺激)を対象刺激として用い、その意識化のプロセスを検討した。 2. 視覚情報が無意識状態から意識状態に移行する際の神経メカニズムの解明 1つ目のアプローチにより、視覚表象の意識化における脳内情報処理の流れは特定しつつある。だが、それらの部位で視覚情報に対するどのような神経処理が行われているか、その具体的な内容(処理様式)に関しては未だ不明な点が多い。そこで2つ目のアプローチでは、1つの視覚刺激が持つ輝度・色・位置など種々の情報に注目し、神経回路の中でそれらの情報がどのように処理・統合・表現されるのか、という点を調べた。交付申請書に記載の通り、今年度は、情報の統合(バインディング)に注目した。特に「無意識状態から意識状態に移行する過程で、情報の統合はどのように進むのか」「無意識状態での神経処理においても、ある程度の情報のバインディングはなされているか」といったテーマを中心に実験を行った。その結果、特に後者の問題に関しては、無意識状態においてバインディング処理が行われていることを示す明確な実験結果を得た。成果は論文としてまとめ、現在雑誌に投稿中である。
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