これまでの検討で、神経活動依存性遺伝子はその時間的制御の観点から早期型と遅延型に分類されうることが分かった。遅延型の遺伝子座の多くは、転写抑が抑制される傾向にある核膜周辺に局在していた。今年度、クロマチン修飾を検討し、遅延型遺伝子群の中に転写抑制性修飾ヒストンH3の9番目リジンのジメチル化(H3K9me2)、27番目リジンのトリメチル化(H3K27me3)が高い遺伝子を見出した。H3K27me3は、ポリコーム複合体1(PRC1)が結合し、クロマチンが凝縮されていることが知られる。申請者らは、神経活動依存性転写の際には、PRC1複合体がクロマチンから遊離しクロマチンが緩むと想定しており、このダイナミックなPRC1複合体制御の有無を検討していく予定である。また、遅延型遺伝子の核膜への局在とH3K27me3の関連については現在検討中である。一方、H3K9me2修飾を有さないG9aノックアウトES細胞から誘導されたニューロンでも遅延型遺伝子の核内配置は野生型と変わりなく、H3K9me2修飾は遺伝子の局在と直接の関連がないことが示された。クロマチン関連タンパク質のクロマチンへのダイナミックな結合に関しては、クロマチンの立体構築など関与するコヒーシンのクロマチン結合を検討したこところ、神経活動による変化を認めなかった。一方、通常は分裂細胞のS期にのみ転写されるコアヒストンH3の神経活動依存性転写増強を見出した。また単離核からの塩抽出法などによりタンパク質レベルでも発現上昇を確認した。このことは、神経活動依存性にクロマチン関連タンパク質のみでなく、コアヒストンも新規合成され交換されている可能性を示しており非常に興味深い。来年度以降は、コアヒストンが実際に交換されているかどうか、されているとすればゲノムのどの領域であるか、またその領域は核内のどの部位に位置するかを検討していきたいと考えている。
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