研究概要 |
中枢神経系におけるシナプス形成機構の分子レベルの素過程として、発現する蛋白質の分子修飾と細胞内情報伝達系による制御が考えられる。本研究は、グルタミン酸作動性シナプスにおける興奮性シナプス形成と維持の基本的な調節機構の解明を目指す。今年度は昨年度に引き続き、哺乳類中枢神経系の主要な興奮性神経伝達物質受容体である、グルタミン酸受容体とその結合蛋白質に関して翻訳後修飾解析を行なった。その結果、パルミトイル化を触媒する一群のパルミトイル・アシルトランスフェラーゼの内、躁鬱病および統合失調にそれぞれ関連するDHHC-5とDHHC-8が、AMPA受容体結合蛋白質GRIP1に会合して、GRIP1のパルミトイル化を亢進し、神経細胞において樹状突起へのGRIP1の輸送を制御する事を見出した。更に、このGRIP1パルミトイル化は、結合するAMPA受容体の輸送を促進していた(Neuron 73, 482-496(2012))。また、大脳皮質興奮性シナプス後膜側に局在し、知的障害と自閉症に関わる精神疾患原因遺伝子Interleukin1-receptor accessory protein-like1(IL1RAPL1)を介した情報伝達系の解析を、・昨年度から継続して行なった。今年度は、全反射顕微鏡を用いて生きた神経細胞におけるAMPA受容体一分子の継時的観察を行ない、ILIRAPLIが下流の細胞内情報伝達系によりAMPA受容体各サブユニットの神経細胞表面への組み込みを制御している事を明らかにした。この制御機構には、IL1RAPL1の細胞外と細胞内ドメインが共に必要であった(Journal of Pharmacological Sciences 118, Supplement 1, 118(2012))。今後、更にIL1RAPL1下流の細胞内情報伝達系に関わる各分子の役割を解析する。
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