研究概要 |
トリ脳幹の聴覚神経核では,軸索起始部(AIS)の位置や長さが音の周波数領域毎に異なる.このことは,AISの分布がシナプス入力に応じて変化するという新たな可塑性機構の存在を示唆する.特に,AISは活動電位の発生部位であることから,この可塑性機構は神経活動を調節する上で最も効果的なしくみだと考えられる.本研究では,哺乳類の蝸牛神経核に相当するトリの大細胞核(NM)を対象に,AISに生じる可塑性機構の存在を検証し,さらにその特性を明らかにする. 本年度は,ヒヨコの内耳を機械的に取り除くことで聴覚入力遮断を行い,このことのNMにおけるAISのNaチャネル分布に及ぼす効果を検討した.まず,聴覚遮断を行った動物を用いて免疫染色を行い,波長405nmのレーザーを搭載した共焦点レーザー顕微鏡により解析を行った.その結果,NMにおけるAISのNaチャネル分布は,聴覚遮断により3-7日の時間経過で約1.5倍に延長することを明らかにした.このNaチャネル分布は膜の足場蛋白質であるankyrinGの分布と一致することから,聴覚遮断はAISの構造自体を変化させると考えられた.次に,聴覚遮断に伴うAISの機能変化を脳幹の急性切片標本を用いてパッチクランプ法により調べた.まず,電圧固定下にNM細胞からNa電流を記録したところ,軸索のNa電流は聴覚遮断により約1.5倍に増加するのに対して,細胞体のNa電流には変化を認めなかった.さらに,電流固定下に活動電位を記録したところ,聴覚遮断により活動電位の閾値は低下し,振幅は増加した.以上のことから,NM細胞では聴神経活動の消失に伴って,AISの長さが延長し,Na電流が増加することにより,細胞の興奮性が増すことを明らかにした.
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