研究概要 |
トリ脳幹の聴覚神経核では,軸索起始部(AIS)の位置や長さが音の周波数領域毎に異なる.このことは,AISの分布がシナプス入力に応じて変化するという新たな可塑性機構の存在を示唆する.特に,AISは活動電位の発生部位であることから,この可塑性機構は神経活動を調節する上で最も効果的なしくみだと考えられる.本研究では,哺乳類の蝸牛神経核に相当するトリの大細胞核(nm)を対象に,AISに生じる可塑性機構の存在を検証し,さらにその特性を明らかにする. 昨年度は,内耳除去による聴覚遮断がNM細胞のAISを延長させることを報告した.しかしながら,これらの実験ではAISの変化が聴神経活動の変化でなく,内耳障害自体で生じた可能性も否定できない.従って,本年度は内耳が無傷な状態で入力を変化させ,このことがNM細胞のAIS分布に及ぼす効果を検証した.まず,鼓膜を破ることや,耳小骨を固定または除去することにより様々な伝音性難聴の動物を作製した.これらは,それぞれ20dBと50dBの聴力低下を生じることが知られている.鼓膜を破った場合には,NM細胞のAISには僅かな延長がみられるのみであったた.一方,耳小骨を固定または除去した場合には著明な延長が認められた.このことから,AISの変化には大きな聴覚入力の変化が必要だと考えられる.次に,動物を強い音環境に1週間暴露したところ,AISには軽度の短縮傾向が認められた.以上,内耳が無傷な状態でもNM細胞のAISの分布には変化が生じ,かつその程度は聴覚入力と相関することを明らかにした.これらの結果は,AISの変化には聴神経からのシナプス入力の変化が重要であることを示している.
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