本研究課題では、外部刺激に応答してその構造を変化させる"スマート"高分子を用いて、そのユニークな伸縮変化を利用した細胞のトラップと分化誘導因子の放出を同時に行うことで、多能性幹細胞の胚様体の作製と分化誘導を簡便かつ効率的に行う新規培養システムの開発を目指す。平成22年度は、温度応答性高分子のN-イソプロピルアクリルアミド(以下NIPAAmと略す)と官能基を有する2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド(以下CIPAAmと略す)の共重合体を合成し、それらを電界紡糸法によってナノファイバーに加工した。電界紡糸する高分子の濃度、噴射速度、電極間の距離、溶液の粘度、架強度がナノファイバーの形状に与える影響について簡易型走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、その最適条件を見つけた。ファイバー系が小さいほど、水中での温度に応答した収縮・溶解速度は速くなった。また、用いる高分子の分子量が大きくなるとファイバーの強度が増した。また、光架橋をするベンゾフェノン(BP)をCIPAAm側鎖に導入することで可逆的に水和・脱水和を示すナノファイバーネットの作製にも成功した。化学架橋の他に、疎水性のセグメントを導入した物理架橋ファイバーを作製することでもファイバーの水中での不溶化を実現した。このファイバーネットを用いて細胞培養を行った結果、37℃において細胞を包み込むように捕捉し、室温以下で溶解し細胞を放出するようなシステムが実現できた。
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