本研究では、外部刺激に応答してその構造を変化させる“スマート”高分子を用いて、“スマート”ナノファイバーネットを作製し、そのユニークな伸縮変化を利用した細胞のトラップと分化誘導因子の放出を同時に行うことで、細胞のマニピュレーションと機能制御を簡便かつ効率的に行う新規培養システムの開発を目指す。平成22年度までに合成したN-イソプロピルアクリルアミド(以下NIPAAmと略す)と官能基を有する2-カルボキシイソプロピルアクリルアミド(以下CIPAAmと略す)の共重合体を用いて、電解紡糸法によってナノファイバーメッシュを作製した。平成23年度までにCIPAAmのカルボキシル基を介して光架橋をするベンゾフェノン(BP)を導入することで、ナノファイバーメッシュを光架橋をすることに成功した。平成24年度にはこのナノファイバーメッシュを用いて細胞の補足・放出効率を定量的に評価した。具体的には細胞をこのナノファイバーメッシュ上に播種し、温度を上昇させることで細胞をメッシュ内にトラップした。この際、ナノファイバーの径が機械的強度、収縮速度、細胞の補足効率などに与える影響を調べた。またナノファイバーの温度に応答したサイズ変化に関しては、原子間力顕微鏡(AFM)(現有)を用いて調べた。また、温度変化を繰り返すことで、メッシュからの細胞の放出にも成功した。通常、細胞をゲル内に封入する際、有毒なゲル化剤などの使用が懸念されるが、本提案メッシュを用いることで、細胞をメッシュ内に低侵襲に封入できるのみならず、外部刺激で放出させることも可能なため、様々な細胞マニピュレーションのツールとしての可能性が期待できる。同時に平成24年度にはこのファイバーからの薬物放出制御にも成功しており、内部に封入した細胞の分化誘導制御などにも本提案ファイバーが有用であることが強く示唆された。
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