研究概要 |
運動中には血圧や心拍数,自律神経活動が大きく変化する.運動中の循環調節メカニズムを調べることは,運動の安全性や運動による健康の維持・増進への効果を考慮する上で極めて重要である.筋代謝受容器反射は,活動筋内に代謝産物が蓄積することで活性化されるという特性上,静的運動時や高強度の動的運動時の顕著な交感神経活動の増加やストレスホルモンの分泌,血圧上昇に関与すると考えられる.しかし,ヒトの動的運動時において,筋代謝受容器反射の特性を検討する実験モデルは確立されておらず,不明な点が多く残されている.本年度では,ヒトの動的運動時における筋代謝受容器反射の閾値と反応性を,新たな実験モデルを用いて検討した. 11名の被験者において,最大随意筋力の5%および15%の動的ハンドグリップ運動中に,上腕部に取り付けた阻血用カフの内圧を調節して上腕動脈血流量(FBF)を5段階に漸減し,それに対する循環反応を測定した.初期の数段階のFBF減少では循環反応はみられなかったが,FBFがある値よりも低くなると,血流量の低下にしたがって動脈血圧と心拍数は増加し,総末梢血管コンダクタンスは低下した.昇圧反応のみられない部分の血流量と血圧の直線関係を初期応答直線昇圧反応がみられる部分の直線関係を昇圧応答直線としてそれぞれ求め,2直線の交点を筋代謝受容器反射の閾値とした.また,昇圧応答直線の傾を反射の反応性とした.その結果,運動強度の増加によって,1)筋代謝受容器反射の閾値が高い血流量へとシフトすること,また,2)血圧上昇と末梢血管収縮の反応性は変わらないが,心拍数上昇の反応性は高まることが明らかになった.これらの結果は,運動時の循環調節メカニズムの解明を進め,運動の安全性や健康増進の効果を考える上で有意義な学問的基盤となると考えられる.
|