研究概要 |
運動中には血圧や心拍数,自律神経活動が大きく変化する.運動中の循環調節メカニズムを調べることは,運動の安全性や運動による健康の維持・増進への効果を考慮する上で極めて重要である.高強度の運動時には,血圧や交感神経活動が顕著に増加する.高強度運動時の循環および自律神経活動の調節には,動脈圧受容器反射と筋代謝受容器反射が大きく関与していると考えられる.しかし,これら二つの末梢反射が同時に働いた際の循環調節,すなわち動脈圧受容器反射と筋代謝受容器反射の相互作用については不明な点が多く残されている.本年度では,この相互作用に関して,筋代謝受容器刺激時において,一過性に動脈圧受容器を減負荷した場合の循環反応を調べることを目的とした. 12名の被験者において,両大腿部を9分間阻血し,この阻血を解除することで一過性の動脈血圧低下を引き起こして動脈圧受容器を減負荷した.この動脈圧受容器減負荷を安静時(コントロール条件)および筋代謝受容器刺激時(掌握運動後の前腕阻血時)に行い,その際の循環反応を測定した.さらに,大腿阻血解除後2分間の血圧の回復過程における循環反応を解析して,動脈圧受容器反射の機能を検討した.大腿阻血の解除後には,両条件において一過性の血圧低下と心拍数,心拍出量および総末梢血管コンダクタンスの増加がみられた.筋代謝受容器刺激時において,血圧の低下は5mmHg程度大きく,一方,総末梢血管コンダクタンスの増加は小さかった.また,心拍数と心拍出量の増加には差は見られなかった.さらに筋代謝受容器刺激時には,急性の動脈血圧低下に対する動脈圧受容器反射による末梢血管収縮と血圧上昇の反応が著しく高まり,血圧の回復にかかる時間が半分以下に短縮された.このような動脈圧受容器反射と筋代謝受容器反射の相互作用は,運動時において血圧を安静時よりも高い値で安定して維持することに大きく貢献すると考えられる.
|