研究概要 |
運動中には,運動の強度に対応して心拍数や血圧,活動筋血流量が調節される.これらの調節は,生体機能を維持しながら運動を遂行するために不可欠である.運動中の循環調節メカニズムを調べることは,運動の安全性や運動による健康の維持・増進への効果を考慮する上で極めて重要である.筋代謝受容器反射は,高強度運動時の循環および自律神経活動の調節に大きく関与すると考えられている.しかし,ヒトの動的運動時における筋代謝受容器反射の機能については不明な点が多く残されている.本年度では,ヒトの特徴である立位運動時に主要な活動筋となる下腿筋群における筋代謝受容器反射の特性を調べることを目的とした. 被験者(10名)は,18分間の動的足底屈運動(足間接角度を90度から120度まで底屈させる.頻度は30回毎分)を,運動する側の下腿を陽圧負荷装置に挿入した状態で行った.運動強度は,漸増負荷試験により求めた最大負荷の20%, 40%, 60%とした.各強度での運動をコントロール(陽圧負荷なし)と陽圧負荷条件の2条件で実施した.陽圧負荷条件では,活動筋血管の還流圧を低下させて血流量を減少させることを目的として,運動開始の3分後から段階的に10, 20, 30, 40, 50 mmHg を3分ずつ負荷した.20%強度では,50mmHgの陽圧負荷においてのみコントロールと比較して血圧と心拍数が上昇した.40%強度では,30mmHg以上の陽圧負荷で血圧と心拍数の増加がみられた.さらに60%強度においては,10mmHg以上の陽圧負荷によって血圧と心拍数が増加した.このことから,下腿筋群における筋代謝受容器反射は,運動強度が高まるほど還流圧減少が少なくても活性化されることが示唆される.本研究の成果は,ヒトの動的運動時における運動強度依存性の循環調節メカニズムの解明を進めるうえで重要な学問的基盤となると考えられる.
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