本研究計画の初年度である22年度には、動物に対する精神的ストレス負荷を行い、脂質酸化生成物の測定解析を行った。具体的には非運動性のストレスによる胃粘膜障害のモデルとして使用される水浸拘束をマウスに対して負荷した。結果、水浸拘束負荷を行ったマウスでは、行わなかったマウスと比較して、血漿中の脂質酸化生成物が有意に増加することを見出した。脂質酸化生成物は活性酸素種による非特異的な酸化によって生成されるだけでなく、酵素的酸化によっても生成されることが知られている。そこで血液中のmRNAを精製し脂質酸化に関連する酵素の発現変動の解析を行ったところ、水浸拘束負荷によって脂質酸化酵素のmRNAレベルでの発現亢進が確認された。以上のことから、水浸拘束をマウスに負荷することによって、血液中の脂質酸化酵素の発現が亢進し、その結果として脂質酸化物の生成が増加したことが考えられる。現在、脂質酸化酵素の発現に関して詳細を解析している。また、ストレス環境下における不安行動に異常を持つことが知られているTs65Dnマウスを用いて、中枢神経の酸化傷害を抗酸化物質で抑制することで行動異常を改善することができるかを検討した。Ts65Dnマウスでは海馬における脂質酸化生成物の増加、海馬神経細胞数の減少および行動異常を認めた。本マウスに胎児期から継続してビタミンE(抗酸化ビタミン)を長期間投与することによって、海馬における脂質酸化生成物を抑制し、海馬の神経細胞数を改善できることを見出した。またストレス環境下での行動異常にも改善を認めた。この研究結果をFree Radical Biology & Medicine誌に投稿し受理された。
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