本研究計画の最終年度である平成24年度には、初年度で見出した精神的ストレス負荷時に脂質酸化生成物が生成されるメカニズムについての詳細な解析を行った。特に活性酸素に依存しない酵素的酸化によって生成される脂質酸化生成物の変動を認めていたため、酵素活性の亢進の機序に関して解析した。この脂質酸化酵素は腹腔マクロファージで強く発現が認められるため、腹腔マクロファージ細胞内での局在の変化を、超遠心分離法によって細胞質分画、細胞膜分画に分けて特異抗体を用いたウエスタンブロッティング法にて解析した。その結果、細胞質分画に多く存在していた酵素が、精神的ストレスの負荷によって細胞膜分画で脂質酸化酵素の増加が認められ、脂質酸化酵素の局在の変化が本モデルで生じていることを見出した。 また、精神的ストレスによって最終的に胃潰瘍が生じるが、本モデルで、脂質酸化生成物の増加に精神的ストレスが誘因となっているか、胃潰瘍が誘因となっているかを確認するために胃潰瘍治療薬を投与した条件で精神的ストレスを負荷した。その結果、胃潰瘍治療薬の投与によって胃潰瘍の形成が完全に抑制されていたにも関わらず、脂質酸化生成物の増加は変わらなかった。以上の結果より、精神的ストレスによって本脂質酸化生成物は酵素的に生成されることが明らかとなり、現在、本研究成果の論文化に向けて 準備を進めている。また、本脂質酸化生成物が精神的ストレスの客観的評価手法として有用であることを主旨とした特許の出願を行った。 また、ヒトに終夜のデスクワーク作業負荷を行った際の血液中脂質酸化生成物および抗酸化物質の測定を行ったところ、終夜のデスクワーク負荷に伴って、抗酸化物質トコフェロール、コエンザイムQの減少とトコフェロール酸化物の増加及びコレステロール由来脂質酸化物の増加を認めた。このヒト疲労負荷実験の結果を論文にまとめ現在投稿中である。
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