研究概要 |
本研究では、新たな栄養センサーの発見と生活習慣病予防・治療法の開発を目的とし、臓器特異的なリン感受性遺伝子群および代謝産物を同定することを試みた。我々はトランスクリプトーム解析により腸管および肝臓において解毒代謝に関連する遺伝子群を同定し、新たなリンセンサーとして癌ストレス制御因子NF-E2-related factor 2(Nrf2)を同定した。実際、Nrf2欠損マウスにおいては、食事性リンによる解毒調節作用が消失することを確認した。また、食事性リンは日内代謝リズム制御に重要である時計遺伝子(Clock,BMAL1,Per2)の肝臓および腸管での発現を変化させることを見出した。さらに、高リン血症を呈する腎不全ラットでも時計遺伝子群の発現変動を確認した。このことから、リンは従来報告されている副甲状腺ホルモン・FGF23を介した骨代謝調節と共に、Nrf2を介した体内解毒や時計遺伝子を介した日内代謝リズムを調節することが示唆された。また、興味深いことに、細胞外リン濃度の変化は、AMP-activated protein kinase (AMPK)の活性化に影響を与えたことから、AMPKはリンセンサーとして細胞機能および代謝調節に重要な役割を有している可能性を見出した。今後、ヒト試験および遺伝子改変動物を用いた解析により、さらに詳細な栄養素シグナル経路の同定を行い、生体リン臓器間ネットワークの統合データベースを構築する予定である。
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