脂肪の蓄積は、インスリン抵抗性を誘導し、耐糖能異常や脂質代謝異常などの代謝性疾患を引き起こす一因となる。しかしながら日々の食生活がどのように脂肪の蓄積に関与し、インスリン抵抗性および代謝性疾患を誘導するかは、必ずしも明らかになっていない。そこで、脂肪細胞の分化に伴う遺伝子発現調節に関与するエピゲノム因子Brd4を介した肥満およびインスリン抵抗性の発症機構を探索するとともに、内臓脂肪の蓄積に関連する生活習慣を検討した。 (1) Brd4 siRNA発現3T3-L1脂肪細胞(分化過程)におけるトランスクリプトームの解析およびBrd4ヘテロ欠損マウスの離乳期における脂肪組織を用いた脂質代謝関連遺伝子の発現の解析により、Brd4の発現抑制は分化過程の脂肪細胞において脂肪蓄積およびインスリン感受性遺伝子の発現を低下させることが明らかとなった。また、成熟期のBrd4ヘテロ欠損マウスに高脂肪食を19週間摂取させたところ、野生型マウスに比べて肥満、インスリン抵抗性、脂肪肝が軽減されることが明らかとなった。それゆえ、Brd4は脂肪細胞における脂肪蓄積能を増大させることによって肥満やインスリン抵抗性の発症に関与することが考えられた。 (2)人間ドックにおける横断研究によって内臓脂肪の蓄積とBrd4の標的であるアディポカインFABP4の血中濃度と肥満・CVDリスクとの関連(3章)を検討した。S市の健康増進センターにて健康診査を受診した30-64歳の男性のうち、代謝性疾患の治療を受けていない320名を対象とした。「血中FABP4濃度は、血圧と強い正の関連性が見られたが、MLRAを用いた解析により、血中FABP4濃度と血圧との関連は脂肪蓄積を介したものである可能性が示唆された。 本研究の成果は、食習慣の改善を介した脂肪細胞における遺伝子発現制御が生活習慣病の予防や改善に効果的である可能性を示唆している。
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