本研究では、老化のエピジェネティック制御機構を細胞レベルと個体レベルで同時に理解することを目標とした。最近われわれは、クロマチンリモデリング因子CHD8がクロマチン上にリンカーヒストンH1を呼び込むことによってp53機能を抑制することを見出したが、CHD8/ヒストンH1複合体は細胞老化におけるクロマチンリモデリングに重要な役割を果たしていることが予想された。そこでわれわれは、「CHD8/ヒストンH1が老化のマスター遺伝子ではないか?」という仮説を提唱し、CHD8/ヒストンH1複合体がどのように細胞老化に関わっているか、さらに発がん抑制に果準す役割を実験的に明らかにすることを提案した。 本研究では、まず正常細胞でCHD8を過剰発現し、細胞老化に及ぼす効果について検討した。その結果、正常細胞においてCHD8の強制発現はp53誘導性の細胞老化を抑制することが明らかとなった。次に発現誘導型CHD8トランスジェニックマウスを作製すうことによって、CHD8が強力なトランスフォーメーション活性を示すことを明らかにした。つまり、CHD8は抗老化作用をもつことが予想されるだけでなく、癌遺伝子として機能する可能性が高いものと考えられた。また正常老化マウスや老化モデルマウスでは、CHD8/ヒストンH1の発現レベルが著明に低下していることが判明した。さらに正常細胞でヒストンH1をノックダウンすると細胞老化が誘導され、CHD8ノックアウトマウス由来の細胞も同様に細胞老化を来すことが明らかとなった。現在その個体老化について解析すると同時に、マイクロアレイとChIP-Seqによって、CHD8/ヒストンH1複合体による老化とがんのシグナルネットワークを網羅的に解析している。このように細胞レベルと個体レベルの二つの方向より老化研究を発展させ、それらを融合させて老化とがんの分子機構の全貌解明を目指している。
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