研究課題
前年度までに開発した網羅的糖鎖変動定量分析技術IGEL法(K. Ueda,et al,Mol Cell Proteomics,2010)、及び96連IGEL精製ロボットを使用し、本年度は144症例の血清を使用した肺癌糖鎖標的マーカースクリーニングを実施した。健常者血清39例、良性肺疾患29例(COPD6例、間質性肺炎23例)、肺腺癌Stage I-V49例、肺扁平上皮癌Stage I-IV 27例、を初年度に決定したConA、SSA、LCAレクチンビーズそれぞれについてIGEL精製を行い、LTQ-Orbitrap-Velos質量分析計(Themo Scientific社)にて分析を行った。全質量分析データはExpressionistプロテオームデータベースサーバー(Genedata社)に転送され、同サーバープラットフォーム内蔵のモジュール群にて標準化、全ペプチドのサンプル間定量、さらに統計解析を行った。3種レクチンから、144症例間の重複を除いて平均17万ペプチドが相対定量化され、血清糖タンパク質900種類が同定された(False Discovery Rate<1%)。上記3種レクチンの定量解析からは、各血清糖タンパク質上糖鎖におけるハイマンノースタイプ、α2-6シアル酸、α1-6フコースの癌性変化が定量的に数値化できる。肺腺癌、扁平上皮癌それぞれで特異的に糖鎖構造変化が観測される糖タンパク質を同定するため、一次スクリーニングとしてKruskal-Wallis検定(p<0.01)、二次スクリーニングとして判別分析を応用した統計解析を行った。その結果、健常者と良性肺疾患からなるコントロール群と早期肺癌群(Stage I,II)、及び進行肺癌群(Stage III,IV)の3群を擬陽性率5%未満で有意に識別可能なバイオマーカーセットの確立に成功した。肺腺癌の早期診断にはSSA、LCAレクチンを使用して9種類の糖タンパク質上糖鎖変動を定量化すればよく、肺扁平上皮癌の早期診断では3種レクチンを用いて7糖タンパク質の糖鎖変動を検出すればよいことが判明した(論文投稿中)。当初予定を大きく繰り上げ、現在は次年度以降に行う最大500種類の抗原を同時定量できるLuminexテクノロジーを応用した大規模検証実験に向け、特異抗体の準備、評価を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画では、平成24年度前半までに血清100症例を用いた肺癌糖鎖標的バイオマーカースクリーニングを完了する予定であったが、96連ロボット作成による前処理のハイスループット化、Expressionistプロテオームサーバープラットフォーム導入による大規模情報解析(約50ギガバイトRaw dataの定量、統計解析)の大幅高速化などにより、当該年度内にバイオマーカー候補の選定まで達成することができた。さらに、上記スループットの向上に伴い使用症例数も144例にまで増加させることができ、想定以上に信頼度の高いバイオマーカースクリーニングが実施できたことからも、当初計画と比して推進速度、成果内容ともに上回ると考えられる。
平成24年度以降2年間で、肺腺癌、扁平上皮癌の診断に有効と考えられたすべてのタンパク質糖鎖構造を、1アッセイで同時定量、統合評価する系の構築を目指す。Luminexテクノロジーでは3種類の蛍光色素を個別の濃度で組み合わせて染色した500種類のビーズセットを使用する。異なる染色ビーズ表面に各バイオマーカー糖タンパク質に対する抗体をカップリングさせ、血清と混和、洗浄後、Cy3標識レクチン(ConA、SSA、LCA各1ウェルずつ)と反応させる。最終的にフローサイトメーターと同様の原理で、個々のビーズに対して赤色レーザーでビーズの種類を決定、次に緑色レーザーでCy3蛍光強度を検出することで、1サンプル3ウェルからバイオマーカー全項目同時定量系を確立する。特に次年度は研究計画前半で同定されたバイオマーカー糖鎖癌性変化の確証実験、ELISAに最適な抗体作製、評価に注力する。
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