2010年度の研究計画は、(1)研究環境の整備(平成22年4月~9月)(2)サンプリングと化学分析の実施(平成22年10月~平成23年3月)であった。各々に関する成果は以下の通りである。 (1)電気化学アナライザー、酸素混合器、柱状採泥器など、サンプリング・実験に必要な備品を整備し、動作確認を実施した。これらの実験設備は、2011年度に実施する室内実験で有効活用する予定である。 (2)琵琶湖および別府湾において、それぞれ琵琶湖環境科学研究センター、愛媛大学沿岸環境科学研究センター・環境動態解析部門と共同でサンプリングを実施した。琵琶湖は6月、別府湾は9月と11月にサンプリングを実施し、底泥試料、水試料、懸濁物試料などを採取した。 琵琶湖では、底泥試料の分析から、底泥表層に濃縮したヒ素とマンガンの濃度が、1976年と比較して大きく増加していることを明らかにした。この上昇は、1950年代以降継続して観測されている溶存酸素濃度の低下と関連している可能性がある。表層に濃縮したマンガンとヒ素は、溶存酸素濃度が将来的にさらに低下すると、ある段階で湖水に大量に溶出することが危惧される。底泥表層のマンガンとヒ素の化学形態をXAFS法で分析し、この可能性について検証中である。 別府湾では、海底付近が無酸素条件になる9-11月にサンプリングすることで、酸化還元境界付近の微量元素動態について有用な知見を得ることができた。とくに、マンガン・鉄・ヒ素の挙動について、熱力学的に予測される分布と調和的な結果が得られた。 琵琶湖と別府湾の結果を比較すると、琵琶湖のマンガン・ヒ素は熱力学な予測値よりも高い濃度で溶けだしており、湖底生態系への曝露が懸念される。
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