研究課題
2011年度の研究計画は、(1)サンプリングと化学分析の実施(2)生体分子分析法のセットアップであった。各々に関する成果は以下の通りである。(1)琵琶湖において、琵琶湖環境科学研究センター、愛媛大学沿岸環境科学研究センター・環境動態解析部門と共同でサンプリングを実施した。琵琶湖は9月、1月にサンプリングを実施し、生物試料、底泥試料、間隙水試料、懸濁物試料などを採取した。これらの解析から、貧酸素化にともなうマンガン・ヒ素の動態変化が詳細に明らかになり、数値モデル化に必要なパラメータも一通り揃えることができた。ヒ素・マンガンの溶出が湖底固有魚種イサザの大量死に及ぼした影響について論文をまとめ、Environmental Science & Technology誌に掲載が決定している。また、昨年度採取した別府湾の試料についても、引き続き解析を実施し、湾内の微量元素動態について詳細な知見を得た。(2)魚類試料に対するストレスを、生体分子マーカーを用いて調べるために、HPLC-ICP-MS法を用いた手法を立ち上げた。具体的には、サイズ排除クロマトグラフィーカラムやマルチモードカラムを用い、金属結合タンパクの定量法をセットアップした。(3)その他の成果として、酸化還元に敏感な溶存化学種の迅速な測定法が必要だったため、形態型の土色計を用いた現場分析法を開発し、現在国際誌に投稿・審査中である。
2: おおむね順調に進展している
琵琶湖の研究に関しては、地球化学的動態について計画通りに研究が進行し、生態影響に関する知見も得られている。これに加え、過去数10年における環境変動の歴史的な知見も得られていることから、当初の計画以上に進展していると自己評価している。別府湾の研究については、地球化学的な調査はおおむね順調であるが、夏季にほぼ無酸素化する海域からの生物試料の入手が思うように進まなかったため、淡水と海水での現象比較という点では、計画通りとは言い難い。
別府湾の酸素濃度変化が海洋生態系に及ぼす影響を調べるのがやや困難である一方、琵琶湖の研究については、計画以上の進展も見られた。そこで、最終年度は琵琶湖の研究にエフォートを重点配分し、当初の計画にはなかった湖内生物中微量元素濃度と生態ストレスマーカーの関係解析や、数値モデリングに着手したいと考えている。本年度後半は成果公表に大半のエフォートを割く予定であるが、愛媛大学には大量の生物・環境試料を保管できる設備を有すことから、サンプルの収集は必要に応じて年度の終盤まで継続する予定である。
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Environmental Science & Technology
10.1021/es300376y
Interdisciplinary Studies on Environmental Chemistry
巻: 6 ページ: 133-140
地球化学
巻: 45 ページ: 61-97