可搬型炭素安定同位体観測システムが昨年度に基本的な部分が完成し、屋外環境で長期連続的に森林における二酸化炭素安定同位体を観測することが可能となった。本年度は、本システムを応用的に利用し、炭素安定同位体ラベリング実験を季節ごとに行い、樹木内の炭素動態の季節変動を捉えるとともにその実効性を検証した。 アカマツ樹体内の炭素動態を明らかにするために、樹高20mのアカマツ成木の樹冠部を覆うようにラベリングチャンバーをかぶせて13CO2ラベリングを行い、樹体内の炭素動態に関する測定を冬季と夏季に行った。冬季のアカマツラベリング実験によって、冬季(12 月)に固定された炭素は樹冠上部で蓄えられ、春先、気温が上昇し、光合成・蒸散活動が活発になるにつれて、急激に下方に流下し、呼吸基質として使われることが観測された。この現象はアカマツ新芽の伸長・展葉前に起こっており、生長に先立ち転流が行われることが示唆された。炭素到達時間から求めた炭素移動速度は 0.11m/hから0.23m/hであり、上部でやや速く、下部で遅い結果が得られた。冬季における実験では13CO2の放出パターンは大きく異なっていたが、炭素到達時間は上部ではそれほど大きな差異はないものの、下部に行くほど遅くなっていた。本実験により、これまで捉えられることのなかった常緑針葉樹成木の樹体内炭素移動の季節変動の詳細について非破壊的観測により明らかにすることができた。今後、本システムとラベリング実験を組み合わせ、他の樹種や生態系で複数回適用することにより、より高時間解像度の樹体内炭素動態について明らかにすることができるであろう。
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