メタンは二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスである。森林土壌は好気的な環境ではメタンの吸収源とされる一方、森林の樹木はメタンの放出源となる可能性が指摘されている。また、その際の放出量は熱帯の高温環境で大きく、さらに放出が蒸散とともに生じるという報告もある。このように、森林生態系と大気間のメタンのやりとりは定性的にすら未解明な点が多い。 そこで、応答速度の高いメタン濃度計を用いて、国内および熱帯の森林で乱流変動法を適用して、森林-大気間のメタン交換量の算出を行い、水蒸気交換との関連を調査した。その結果、1. クローズドパス型の機器では風速との同期に問題が生じる可能性が示された。また、オープンパス型の機器では、LAN回線によるデータ信号は他機器の信号と別に取得する方が良いことが判明した。2. 国内の都市近郊林およびカンボジア国の低地常緑林ではともに、樹冠上のメタン濃度は昼間に低下し、夜間に上昇する傾向があった。また、カンボジア国では、雨季(6月半ば)よりも乾季(3月初め)にメタン濃度の日較差が大きくなった。3. オープンパス型の機器をカンボジア国で稼働したが、主に機器汚れによるデータ不良により、満足な稼働期間を得られなかった。ただし乾季には、昼間のメタン濃度低下に追随して下向きのメタンフラックスが算出され、森林樹冠から水蒸気が放出される現象とは反対の日変動を示した。一方、雨季は日変化が小さくその傾向は把握し難いものの、日中に若干のメタン放出の傾向があり、そのピークは午前中にあった。 以上より、少なくとも樹冠上での測定からは、熱帯モンスーン下の低地常緑林では、乾季にはメタンが森林生態系に吸収されており、蒸散とリンクした樹木からのメタン放出は卓越しないことが明らかになった。雨季のメタン放出は蒸発散と関係する可能性があるが、さらに同様なデータの蓄積と再解析が必要であると考えられた。
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