研究概要 |
植物プランクトンに対する海水中のCO_2濃度増加の影響を把握するための室内実験系を構築し,単離培養株を用いた影響評価試験を実施した。植物インキュベータを用いた試験管サイズでの実験系を構築し,蛍光光度計による細胞内クロロフィル蛍光の直接測定により比増殖速度を簡便に計測する実験システムを確立した。珪藻5種およびその他植物プランクトン6種の計11種の単離培養株を用い,180-200,000μatmの範囲のCO_2分圧での比増殖速度の変化を調査した結果,CO_2増加に対する応答が種により異なることが明らかとなった。全ての種について,750μatm以下での増殖の変化は認められなかった。ハプト藻Gephyrocapsa oceanicaの増殖は1,000μatmにおいて対照区(380μatm)の約7割に低下する一方,緑藻Dunaliella tertiolectaの増殖は200,000μatmにおいても対照区の6割以上を維持した。また,2,000-30,000μatmの範囲内で増殖が促進される種も認められた。これらの結果から,21世紀中に想定されるCO_2増加の範囲においては,植物プランクトンの比増殖速度の変化は小さいものと考えられた。室内実験の実施に加え,過去の自然プランクトン群集を用いた影響評価試験の分析及び解析を進め,栄養塩が不足することにより増殖が律速されている植物プランクトン群集では,CO_2増加により生産される有機物の量および質が変化する可能性があることを明らかにした。これらの結果は学術論文および学会などにおいて積極的に研究発表した。
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