研究概要 |
平成23年度は22年度に構築したCO2ガス調整培養システムを活用し,親潮域春季ブルーム期の現場型実験および珪藻単離株を用いた室内実験を実施した。 現場型実験として,海洋開発機構・淡青丸による親潮海域での研究航海(2011年5月,KT-11-7次航海)に参加し,春季ブルーム期の自然プランクトン群集に対するCO2濃度増加の影響評価実験を実施した。ブルーム発生前の海水をボトルに採取し,船上においてCO2濃度を調整しながら培養してブルームを発生させる予定であったが,震災による航海日数の削減および荒天による観測日数の低減のために,植物プランクトンが大増殖するために十分な培養期間を確保することができなかった。植物プランクトン生物量の増加がほとんど見られなかったことから,植物プランクトンの増殖および有機炭素生成過程に対するCO2濃度増加の影響を把握するに至らなかった。 これを補完するため,室内実験として,珪藻Pseudo-nitzschia pseudodelicatissimaを用いた培養実験を実施した。ここでは,CO2および鉄濃度が珪藻の増殖に与える複合的な影響を把握するため,CO2と鉄の両者を同時に制御するための実験系を構築した。珪藻細胞の有機炭素・窒素・リンを測定することにより,細胞の生元素組成比の変化を調査した。その結果,細胞のC:N比は鉄濃度の減少と共に増加,C:P比はCO2濃度の上昇に伴い増加,N:P比およびSi:C比はCO2と鉄濃度の両者の上昇により,それぞれ増加および減少することが明らかとなった。細胞成分毎にCO2依存,鉄依存,および両者依存的に変化することから,将来のCO2および鉄濃度が変化する環境下では生元素の物質循環が受ける影響は成分毎に異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CO2ガス調整システム(H22設置,H23増強)を活用した培養実験システムを構築し,植物プランクトン単離株6種を用いた試験管サイズでの室内実験(H22),親潮域春季ブルーム時の自然プランクトン群集を用いた現場型実験(H23)を実施し,海洋酸性化が植物プランクトンに与える影響に関する知見を着実に蓄積しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
植物プランクトン単離株を用いた室内培養実験システムを数リットルサイズにスケールアップし,海洋酸性化が植物プランクトンの有機炭素生成過程に与える影響を把握する。有機炭素は細胞内に貯蔵され,粒子態有機物として生成されるのか,溶存態有機物として細胞外に放出するのかを明らかにし,海洋生態系・物質循環の視点から影響を評価する。さらに,これまでに得られた室内および現場型実験結果を総合的に解析し,得られた知見を広く公表するため,論文作成および学会発表を推進する。
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