研究代表者は前年度までにファンコニ貧血症の原因遺伝子産物の一つであるFANCD2が、重度のDNA損傷ストレスに応答してカスパーゼ3依存的に切断されることを見出し、最終的に合計4箇所の切断部位を同定するに至った。また、同定した部位の全てに突然変異を導入する事によって、カスパーゼによる切断に対して抵抗性を示す「非切断型FANCD2」を作成し、これを安定発現する細胞株をFANCD2欠損細胞を用いて樹立した。その細胞を用いてDNA損傷ストレスに対する応答を解析したところ、非切断型FANCD2を発現する細胞は4箇所の変異を持つにも関わらず、野生型FANCD2を発現する細胞と同程度のDNA損傷ストレス抵抗性を示す事が見出された。つまり、アポトーシスの下流で機能するカスパーゼ3によるFANCD2切断を阻害しても、DNA損傷修復に関しては大きな影響を及ぼさないと考えられる。一方、外因性DNA損傷ストレスの非存在下でのアポトーシス誘導に対する応答を解析するため、TNFαとシクロヘキシミド処理によりアポトーシスの上流で機能するカスパーゼ8を活性化させアポトーシス誘導を行った。その結果、野生型FANCD2を発現する細胞のみが有意にアポトーシス抵抗性を示すことが見出された。今回用いたアポトーシス誘導系がカスパーゼ8の活性化によることから、非切断型FANCD2発現細胞が親株のFANCD2欠損細胞と同程度の高いアポトーシス感受性を示したのは、導入された変異によって野生型FANCD2が有するアポトーシス誘導の上流において働く何らかの機能が失われたためと推察される。これらの結果は、これまでFANCD2の機能として一般的に提唱されているDNA鎖間損傷応答とは独立した「負のアポトーシス制御機能」の存在の可能性を示唆するものである。これらの結果は、これまで他に報告がなく大変興味深い研究成果と言える。
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