本研究では、Pseudochoricystis ellipsoideaが有する、炭化水素やトリグリセリドなどの脂質生産性を高めた株の作出を最終的な目的としている。本年度は、それを達成するために以下の研究を行った。 1. 形質転換系の改良 昨年度までには、パーティクルガンを用いて、P. ellipsoidea に外来遺伝子を導入することに成功している。しかし、その効率は1千万細胞あたり1.7~5.8個と低いため、形質転換効率の改善を試みた。検討した条件は、(1)打ち込みに供する細胞の状態、(2)パーティクルの径と種類、(3)遺伝子の形状、(4)細胞壁の再生条件など、である。これらの一連の検討実験により、形質転換効率を10倍以上向上させることに成功した。 2. 脂質合成に関わる候補遺伝子の構成的発現株の取得 昨年度までのトランスクリプトーム解析とプロテオーム解析により、脂質合成に関わる候補遺伝子を挙げている。それら遺伝子をチューブリンのプロモーター領域とアクチンのターミネーター領域に結合したコンストラクトを持つプラスミドを構築して形質転換に供した。尚、候補遺伝子には発現マーカーとして、FLAGタグをC末端に付加した。4個の候補遺伝子をP. ellipsoidea のゲノム上に導入し、構成的に高発現する株の取得を試みた。その結果、4つのコンストラクトがゲノム上に導入されていることが確認され、プラスミド由来遺伝子から発現されたmRNAとタンパク質を検出した。それら株の脂質量を測定した結果、コントロール株に比べて約1.5倍に上昇していた株が1株存在した。これらの結果より、脂質合成系に関わる候補遺伝子を構成的に発現させることにより、脂質合成能を高めた株の作出に成功した。
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