本研究の目的は、「単一ナノサイズ発光体がプラズモンと相互作用した系」の光子アンチバンチング挙動を詳細に解明することである。アンチバンチング挙動が観測されれば、プラズモンにより発光体から単一光子を効率よく取り出せることを意味し、高輝度な単一光子発生源の創製につながる。逆にアンチバンチング挙動が観測されなければ、プラズモンにより「励起子消滅過程」を抑制可能であることを意味する。励起子消滅過程は、生成した励起子が消えてしまう過程であるため、有機ELなどの発光デバイスや太陽電池などにおいては好まれざる過程である。プラズモンによりこの励起子消滅過程を抑制できれば、これらデバイスの飛躍的な効率向上につながると考えられる。本年度は以下の項目に重点をおき研究を遂行した。 上記を詳細に解明するには、発光体と金属ナノ構造間の距離を明確に制御することが必要不可欠である。そこで、1.原子間力顕微鏡(AFM)のカンチレバーによる金ナノ粒子の操作、および金属コートカンチレバーを用いた単一量子ドット(QD)の発光挙動評価、2.単一QD-シリカコート銀ナノ粒子系のアンチバンチング挙動評価を行った。1では、カンチレバーによる金ナノ粒子操作の精度を詳細に評価し、精度向上のためのパラメーターを決定した。また、金属コートカンチレバーを用いることで、数nmの精度で距離制御が可能であることを見出した。その後、これらを用い、単一QDの発光挙動変化を観測することに成功した。2では、銀ナノ粒子を覆ったシリカ膜の厚さに依存してQDの発光挙動に違いが見られ、シリカ膜厚が薄いほど、すなわち、QD-銀ナノ粒子間距離が近いほど、発光寿命が短くなり、それに伴いアンチバンチング挙動を示しにくくなることを見出した。つまり、プラズモンと強く相互作用することにより、励起子消滅過程を抑制し、発光させることが可能であることを見出した。
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