本年度は、スピン波素子実現のために必要な機能検証のための金属系材料の検討と多層膜の成長、および測定技術の確立を中心として、研究を行った。具体的には、(1)スピン波伝播の測定技術の確立と、スピン波伝播における非磁性下地層の役割についての再検討、および(2)スピン波検出のための逆スピンホール効果の動的検出のための素子作製と出力の検証を行った。時間分解測定手法によって、典型的な強磁性金属であるPermaloyのスピン波伝播の検出を行うとともに、分散関係の定量評価方法を検討した。またPermalloyを下地層として、Ru、Ta等を用いた二層/構造の場合には、スピン波の伝播に影響が現れないのに対して、Cr等の反強磁性体の場合には、スピン波の伝播が抑制される場合があることが分かった。特にCrの場合には、薄膜におけるNeel温度が室温近傍にあることが影響しているものと考えられる。今後、この知見をもとに、ホイスラー合金薄膜をはじめとした金属系材料に関して、スピン波輸送媒体としての適性を評価する。また、エピタキシャル成膜技術を駆使して、Waveguide FMRを応用した多端子素子構造を作製し、動的スピンホール効果のブロードバンド検出を試みた。動的スピンホール効果のシグナル強度は静的なシグナルに比べ、数十倍の大きさであり、スピン波デバイスにおけるスピン波ダイナミクスの検出機構として有望であることを確認した。 これらは、次年度以降の研究計画である、スピン波を用いた各種演算機構検証において、材料選択や、多端子素子構造設計の上で重要な知見である。
|