本年度、大腸がん細胞における低酸素刺激時の転写応答に着目して収集された1億の転写開始点タグデータに対し、次世代シークエンサーを共通の検出器として用いた様々な角度からのChIP Seqデータを収集、解析した。特に、各網羅的な次世代シークエンサーデータの多角的統合的解析から、低酸素応答のマスター転写因子の一つである転写因子HIF-1の標的遺伝子を探索した。1%あるいは21%の酸素濃度下で培養したDLD1細胞を用いて 1)HIF1の結合領域の同定(ChIP Seq法);2)転写因子(RNA polymerase II/HIF1/HIF2)結合領域の同定(ChIP Seq法);3)total RNAのショットガン解析(RNA Seq法)、について、データ収集と解析を行い、低酸素刺激におけるトランスクリプトーム像の変化を網羅的、定量的に記述、解明した。各試料について、次世代シークエンサー・イルミナGAを用いて、各試料につき1000万ずつ、合計2億程度(1レーン当たり1500万として、合計約2ラン(16レーン))の36bpのタグ配列を収集した。その結果、HIF-1の標的遺伝子のうちタンパク質をコードすると考えられるもの120種類、また選択的プロモーターを制御すると考えられるものを15種類、non-coding RNAを制御すると考えられるものを261種類同定することができた。また興味深いことに、低酸素刺激により実際のHIF-1の結合が誘導される以前から、多くの場合、クロマチンがオープン構造を示していた。細胞の系譜あるいは変遷を反映する形で、速やかな転写応答に必要な環境は、クロマチン構造として整備されている可能性を示唆することができた。
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