研究課題/領域番号 |
22681027
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 穣 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 准教授 (40323646)
|
キーワード | 次世代シークエンサー / 低酸素応答 / トランスクリプトーム / 転写開始転 / クロマチン / Chip Seq解析 |
研究概要 |
本年度、大腸がん細胞における低酸素刺激時の転写応答に着目して収集された 1)1億の転写開始点タグデータ(TSS Seq法による)および 2)HIF1の結合領域の同定(ChIP Seq法);2)転写因子(RNA polymerase II/HIF1/HIF2)結合領域の同定(ChIP Seq法による); 3)total RNAのショットガン解析(RNA Seq法による)、 について、収集されたデータについて統合的解析を行い、低酸素刺激におけるトランスクリプトーム像の変化を網羅的、定量的に記述、解明を行った。その結果、低酸素刺激により実際のHIF-1の結合が誘導される以前から、多くの場合、クロマチンがオープン構造を示していることが明らかになった。これにより細胞の系譜あるいは変遷を反映する形で、速やかな転写応答に必要な環境は、クロマチン構造として整備されている可能性を示唆することができた。また同一の細胞系で低酸素刺激依存的なmiRNAを介した転写後遺伝子発現制御解析を行った。抗ago1/2抗体を用いたRIP Seq解析を行うことで、miRNAを介した遺伝子発現制御について網羅的データ収集を行った。免疫沈降を行ったRNAをsmall RNA Seqおよびtotal RNA Seq解析に用いることで、ago複合体に含まれるmiRNAとmRNAを同時に同定することが可能であることを示した。得られたRIP Seqデータの解析結果、低酸素刺激誘導的に応答すると思われるmiRNAを60種類、その標的mRNAを1000種類同定することができた。現在、これらのmRNAがどのような時系列でRNA分解あるいは翻訳抑制を受けるのかについて、個別遺伝子を標的とした解析を行っている。 さらにこれまでに収集されたデータを統合的に計算機モデル化することにより、転写レベルでの調節と転写後調節あるいはmRNAの分解制御といった各段階を網羅する汎トランスクリプトーム的な遺伝子発現制御の解析を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、研究開始2年目までに癌細胞の低酸素応用におけるクロマチン状態、トランスクリプトーム状態の変化について、次世代シークエンサーを用いた網羅的なデータ収集を完了することができた。ただし、その成果公開としての論文化が完了していないこと、また収集されたデータに対して、一定の生物学的解釈を与えるべき計算機モデルの構築に関する試みに着手できていないことを考えると今後一層の努力が必要があると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
クロマチン状態の変化がいかにしてトランスクリプトーム状態の変化をもらたすのか、その計算機モデルの構築、数理的理解を試みるに際し、情報解析あるいは数学の専門家の助言を仰ぐ。京都大学の矢田哲士准教授とは別途、プロモータ配列からの活性予測モデルの構築で共同研究を推進しており、本研究のモデル化についてもどのような計算機手法が有効であるのか適切な助言を仰げると考えている。
|