緩歩動物門を形成する微小動物クマムシのうち、陸生のものの多くは乾燥耐性を持ち、乾燥に曝されると脱水してほほ完全に代謝を停止した乾眠と呼ばれる状態に移行する。クマムシは乾眠状態では超高温・超低温・超高圧・真空・放射線などに耐性を示しこれらのストレス曝露後も給水により速やかに生命活動を再開する。しかしながら、乾燥耐性や極限環境耐性の分子機構には不明な点が多く、分手生物学的なメカニズムの解明が待たれている。そこで、本研究では通常/乾眠時の定量的かつ網羅的なメタボローム(イオン性化合物・核酸・糖・脂質}及びプロテオーム(量及びリン酸化状態)を測定し比較するマルチオミクスの手法により、乾眠の分子機構をシステムとして解明することを目的としている。 本年度は、まず通常と乾眠それぞれの状態のクマムシのメタボロームプロファイルを比較し、有意に増加ないし減少した代謝物質を同定するための条件検討と初期測定を行った。網羅的に代謝物質を測定するために、イオン性化合物にキャピラリー電気泳動質量分析器(CE-TOFMS)を、糖や脂質なとの中性物質に高速液体クロマトグラフ質量分析器(LC-TOFMS)を用いた.この結果、測定に必要な匹数、サンプル準備方法、破砕方法、測定量などの条件を定めることができ、初期的に乾燥状熊と通常状熊においてN=3で大きぐ物質量が変動する化合物を検出できた。また、このような大規模なオミクス解析に必要なソフトウェアの開発を合わせて行った。
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