研究課題/領域番号 |
22681029
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
荒川 和晴 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特任講師 (40453550)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | メタボローム / クマムシ / プロテオーム / 乾燥耐性 / システム生物学 / CE-MS / LC-MS / 極限環境 |
研究概要 |
緩歩動物門を形成する微小動物クマムシのうち、陸生のものの多くは乾燥耐性を持ち、乾燥に曝されると脱水してほぼ完全に代謝 を停止した乾眠と呼ばれる状態に移行する。クマムシは乾眠状態では超高温・超低温・超高圧・真空・放射線などに耐性を示し これらのストレス曝露後も給水により速やかに生命活動を再開する。しかしながら、乾燥耐性や極限環境耐性の分子機構には不明 な点が多く、分子生物学的なメカニズムの解明が待たれている。そこで、本研究では通常/乾眠時の定量的かつ網羅的なメタボローム(イオン性化合物・核酸・糖・脂質)及びプロテオーム(量及びリン酸化状態)を測定し比較するマルチオミクスの手法により、乾眠 の分子機構をシステムとして解明することを目的としている。 本年度は、ヨコヅナクマムシ乾眠状態のリン酸化プロテオームデータを得る事に成功し、また、多くの代謝関連酵素が乾眠時にリン酸化されていることを明らかにした。さらに、得られたリン酸化プロテオームデータを比較メタボローム解析の結果と代謝パスウェイのコンテキストで比較した結果、有意に乾眠時に変動がみられた化合物を代謝する酵素がリン酸化されている傾向を示す事ができた。これは、遺伝子発現によらない急速な代謝変化を可能にするために、クマムシ細胞中では翻訳後修飾であるリン酸化による代謝制御が行われていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定通りに本年度までに通常・乾眠の2条件における比較メタボローム解析と、リン酸化プロテオーム解析を行い、それらがヨコヅナクマムシの乾眠事にどのように細胞システムレベルで制御を行っているかを主に代謝パスウェイのコンテキストで明らかにすることができた。これにより、転写変動を伴わない急速な乾眠におけるロバストな代謝制御の仕組みの一部を明らかにできたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
緩歩動物門のわずか一種における解析の結果によって、この代謝変化が本当に乾眠に必 須であるのかはさらに検討が必要である。そこで、当初の研究計画には記載していないが、研究代表者は昨年度中からHypsibius dujardiniという別種 のクマムシの大量飼育系開発に取り組み、メタボロームが可能な量のサンプルを得られるようになったため、この種の比較メタボローム解析を本年度追加で行う。Hypsibius dujardiniは本研究が対象としてきたRamazzottius varieornatusの近縁種であり、同じHypsibidae科に属しているものの、乾眠能力は微弱である。そこで、既に 充分に安価になったため、高速シーケンサーによってこの生物種のドラフトゲノム配列を決定し、Ramazzottius varieornatusと同様のタイムポイントでトランスクリプトームも計測する。高速シーケンサーそのものは非常 に高額なため、直接購入することなく受託解析を用い、サンプリングと情報解析を全て自前で行う。これらの情 報に基づいてin silicoで代謝パスウェイを再構築し、得られたメタボロームデータを代謝パスウェイのコンテ クストにあてはめて見る事により、システムレベルで乾眠制御がどのように行われているかを観察する。乾眠能力が強い種と弱い種における、通常状態と乾眠状態という4条件の網羅的オミクスデータがこれによって揃うため、クマムシにおける非常に短時間で移行が完了する乾眠の分子メカニズムが明確になると思われる。
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