本研究は、細胞の保存法として現在主流となっている超低温(-80℃あるいは液体窒素中)で保存する凍結保存法ではなく、低温あるいは常温で保存可能な真空凍結乾燥法によって哺乳動物体細胞を調整し、これらの細胞を核移植のドナー細胞として用いることで、絶滅危惧家畜品種の保存および再生技術を開発することを目的とする。そのために家畜として有用性が高く、クローン作出が比較的容易なウシをモデル家畜として研究に供試し、凍結乾燥体細胞由来のクローン牛の作出を目指す。 本年度は、体細胞核DNAの損傷が少ない真空凍結乾燥法の開発を行うために、CHRIST製真空凍結乾燥機ALPHA2-4を導入し、(1)細胞種(卵巣由来の卵丘細胞および顆粒層細胞)(2)凍結乾燥前の細胞培養の有無、(3)ウシ体細胞の凍結乾燥保存に最適な凍結液の組成、および(4)凍結乾燥後の保存法(真空保存および窒素充填)の検討を行った。アルカリコメットアッセイ法による細胞のDNA損傷度の測定の結果、24時間培養した顆粒層細胞を100mM Tris-HClおよび50mM EGTAを組成とする修正EGTAトリス塩酸液中で凍結乾燥し、凍結乾燥後真空保存することで1カ月までの保存期間ではDNA損傷が増加しない傾向にあることが分かった。さらに、これらの細胞の核移植の結果、艀化胚盤胞までの発生例が認められ、まだ研究の初期段階であるものの凍結乾燥体細胞を用いた核移植による個体発生の可能性が見いだされた。今後は胚盤胞発生率の向上を目指しつつ、胚移植を行う予定である。
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