本研究は、細胞の保存法として現在主流となっている超低温(-80℃あるいは液体窒素中)で保存する凍結保存法ではなく、低温あるいは常温で保存可能な真空凍結乾燥法によって哺乳動物体細胞を調整し、これらの細胞を核移植のドナー細胞として用いることで、絶滅危惧家畜品種の保存および再生技術を開発することを目的とする。そのために家畜として有用性が高く、クローン作出が比較的容易なウシをモデル家畜として研究に供試し、凍結乾燥体細胞由来のクローン牛の作出を目指す。 本年度は、前年度に引き続き体細胞の保存のための真空凍結乾燥法の検討を行い、アルカリコメットアッセイ法による細胞のDNA損傷度の評価によって、凍結乾燥後のDNA損傷がほとんど認められないウシ体細胞の保存法を開発した。さらに、凍結乾燥後の卵丘細胞および線維芽細胞由来を用いた核移植によって胚盤胞までの発生に成功した。しかしながら、その発生率は低率であり、核移植後、割球が不揃いであったり内部に核が存在しない不等卵割卵が多く認められた。その原因が、細胞の注入操作による卵細胞質への物理的損傷以外に、凍結乾燥過程で体細胞の中心体を構成するγ-Tublin等のタンパク質が破壊されることが免疫組織化学によって示唆された。 今後は、長期保存が可能な凍結乾燥法を開発し、核移植後の胚盤胞発生率の向上を検討しつつ、受胚雌牛への胚移植を行い、世界に先駆けて凍結乾燥体細胞由来の哺乳動物個体作出を目指す予定である。
|