本研究では、凍結乾燥によって調整したウシ線維芽細胞の特性について検討するために、凍結乾燥前後のタンパク質量、γ-チューブリン数、およびミトコンドリア膜電位を調査した。さらに、凍結乾燥細胞がそのゲノムを維持しているのかどうかをウシ除核卵子への核移植によって評価した。 ウシ線維芽細胞を200 μlあるいは500 μlの凍結乾燥液に浮遊させ凍結乾燥した。細胞の凍結乾燥前後のタンパク質量、γ-チューブリン数およびミトコンドリア膜電位は、それぞれSDS電気泳動、蛍光免疫染色、およびJC-1染色によって計測した。核移植には凍結乾燥後-30 ℃で1週間および1ヶ月間保存した細胞を供試し、ウシ除核未受精卵に注入した。核移植胚は38.5℃、5% CO2、5% O2の気相下で8日間培養し、卵割率および胚盤胞発生率を検討した。 凍結乾燥前と比較して凍結乾燥後のウシ線維芽細胞では、タンパク質およびγ-チューブリン数が減少した。さらに、凍結乾燥後の細胞にはミトコンドリア膜電位が認められなかった。1週間および1ヶ月間保存した凍結乾燥細胞を核移植したときの卵割率はそれぞれ50%および50%、胚盤胞発生率はそれぞれ28%および16%であった。以上の結果より、ウシ線維芽細胞は凍結乾燥によって、タンパク質量およびγ-チューブリン数が減少し、ミトコンドリア活性が消失するにもかかわらず、核ゲノムは維持され移植胚の発生が可能だと考えられた。
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