本研究の目的は、国際社会において急速に力を持ち始めている「先住民」という国際言説や概念、その権利回復の運動が、アフリカの少数集団の直面する問題解決にいかに寄与し、あるいは齟齬を生み、また既存のアフリカ国家と国民の関係や地域社会全体の民族間関係にいかなる変化をもたらしつつあるのかを、複数地域の比較から解明することである。 本年度は、ボツワナおよび南アフリカの両国で、狩猟採集民サンが「先住民」としての土地や資源へのアクセスを求めてかかわっている運動や言語や文化の維持に向けた活動の成果と矛盾などについて現地調査を行い、これまでの調査の結果と合わせて、長期的な視点から分析した。またこうした運動や活動に、近隣の諸民族との関わりについても調査を実施し、「先住民」という概念や言説が普及することで地域社会に生じた変化を考察した。さらに南部アフリカやアフリカ大陸で築かれている先住民のネットワークに関して、NGO関係者や研究協力者などと情報を収集するとともに、アフリカ以外の先住民運動に焦点をあてている研究者らとの議論を通じて、その特徴を明らかにした。 また、これまでの研究成果をまとめて国内外のの学会や研究会で報告するとともに、英語論文を執筆した。またボツワナの調査地域で、地域の住民、NGO関係者、現地の大学の研究者らとともにワークショップを開催し、サン社会の在来の知識の継承や活用のありかたを報告しあい、国家のなかの少数者である彼らの生活や立場の改善に向けた議論を進めた。
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