本研究は、近現代に形成された古日本染織コレクションの形成過程、およびさまざまな形態を持つ資料がどのような形状の変化を伴いながら移動し、コレクションとして集積されたのかを調査することによって、染織史研究の基盤となる古日本染織コレクションが、近現代における美術史研究の中でどのように価値付けられたのかを明らかにするものである。本年度は、東京国立博物館に所蔵される、染色作家・野口彦兵衛が蒐集した小袖コレクション、および、洋画家・岡田三郎助が蒐集したものの内、現在、埼玉・遠山記念館に所蔵される古染織コレクションを調査し、その画像付きデータベースをファイルメーカーで作成した。調査内容としては、まず、画像のないものに関しては、新規撮影を行って画像で閲覧可能なデータの集積を目指した。また、不明なコレクションの伝来や古日本染織の古美術品としての流通経路を所蔵館や国会図書館に所蔵される資料によって可能な範囲で調査した。岡田三郎助コレクションの画像については、遠山記念館の協力を得て画像のあるものについては画像資料をご提供いただいた。また、画像のない未公開の小袖裂についてはでデジタル画像の撮影を行った。さらに、同コレクションの所蔵リストや目録を提供いただき、それらの基礎資料を元にリストをデータ化するとともに、コレクションの全容を調査しその形態や形態の変化、墨書やラベルといった記録を中心に調査を行った。以上の調査によって、東京国立博物館に所蔵される野口彦兵衛コレクションが形成された目的やその構成、形成過程が明らかになるとともに、ほぼ同時期に形成されたと考えられる岡田三郎助のコレクションとの比較検討が可能となった。明治後期から大正初期にかけて蒐集された古日本染織コレクションのデータの集積を元に、その傾向等の分析を行うことは同時期における古日本染織の価値観をうかがう上で重要である。
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