研究課題/領域番号 |
22682001
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
小山 弓弦葉 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, その他部局等, 研究員 (10356272)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 美術史 / 古日本染織 / 古美術商 / 野村正治郎 / 山中商会 / コレクター / 岡田三郎助 |
研究概要 |
本年度は、旧松坂屋染織参考館が蒐集した古染織作品の一部を調査した。松坂屋コレクションには大正期に洋画家・岡田三郎助が蒐集した古日本染織コレクションも含まれており、これまでの展覧会で出品された図版目録や調査報告書をもとに、図版とデータをまとめ入力作業を行った。 また、昨年度に引き続き、日本国内における古染織コレクションとほぼ同時期に蒐集された海外のコレクターによる古日本染織コレクションの調査を行った。10~11月には野村正治郎が最終的にはメトロポリタン美術館に収めた錦・金襴などの袈裟111件の内、特に年記の入った重要な資料である袈裟8件を調査した。同袈裟コレクションについては、当時、野村正治郎がアメリカ各地を巡回した展覧会の目録のコピーをメトロポリタン美術館の付属図書館より入手した。また、山中商会がメトロポリタン美術館で開催した能装束の展覧会についても、その展覧会資料を入手した。 平成25年1月には、ロサンゼルス・カウンティ美術館にある個人コレクターが明治~大正期に蒐集した古日本染織コレクションの内、昨年度調査できなかった28件の袈裟類を調査し写真を撮影して記録した。また、サンフランシスコにあるミルズ・カレッジにおいて、野村正治郎が蒐集した日本の江戸時代の袱紗56件を写真撮影し調査を行った。さらに、ロサンゼルス・カウンティ美術館染織部長・シャロン・タケダ氏のご教示により、サンフランシスコのデヤング美術館に米コレクターの古日本染織コレクションがあることが判明し、その内41点を調査した。これまで知られていなかったデヤング美術館所蔵の古日本染織コレクションの存在が明らかとなったが、日本にある古日本染織コレクションとの関連性については、引き続き比較調査が必要である。 以上の調査で得た写真および調査内容はファイルメーカーに画像と連動させて入力し、今後の研究の基盤となるデータとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、近代に形成された古日本染織コレクションの主要な一つである松坂屋コレクションの一部を調査した。松坂屋コレクションについては蒐集の経緯や時期、蒐集先(コレクションの流れ)などについて近年の調査成果が参照できるため、すべてのコレクションの調査は行わずに、近年の調査研究による展覧会や調査報告書などを参考に画像や資料データの集積を行うことができた。 また、当館所蔵の野口彦兵衛コレクションについては、その遺族にインタビューを行い、野口彦兵衛のコレクションの全貌や蒐集の経緯などを調査することができ、今後、さらに調査を深めるための糸口を得ることができた。 在米の海外コレクターによって蒐集されたコレクションについては、計画通り、昨年度に継続してロサンゼルス・カウンティ美術館のコレクションを調査したほか、メトロポリタン美術館、サンフランシスコ・ミルズ・カレッジの袱紗コレクションの調査も順調に終えることができた。さらに、調査の過程において、これまで知られていなかったサンフランシスコ・デヤング美術館の古日本染織コレクションの存在が明らかとなり、その一部を調査することができたことは大きな進展である。 以上の調査データは、日本染織について専門的な知識を持つ助力者によって整理されパソコンに順次入力が進み、順調にデータが集積された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究費における最終年度に当たるため、近代の日本人コレクターによって蒐集された主要なコレクションの内、特にその全貌が知られていない実業家・長尾欣弥の古日本染織コレクション(現在、東京・女子美術大学付属美術館所蔵)、実業家・根津嘉一郎によるコレクション(現在、東京・根津美術館所蔵)の調査を進める方針である。また、当館所蔵の野口彦兵衛コレクションについて、研究成果を調査報告書および論文にまとめる予定である。 海外調査を進める内に、明治期~昭和初期に欧米に流出し海外コレクターによって蒐集されることになったコレクションの中には、未調査の古日本染織コレクションの存在が多数あることが把握された。これらのコレクションの調査ついては本研究課題では時間的・経費的に消化できず、共同研究者を募って来年度以降に規模を拡大して調査を進めていく必要性を感じている。 そこで、来年度は、当初の計画通り、現状で把握しているアメリカのコレクターのコレクションを調査するほか、フランス国内にあるコレクションついても調査を進め、その過程で次年度以降の研究課題へと発展できるよう、情報の集積を図りたい。
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