本研究は、在日韓国・朝鮮人が所有、経営する企業及び特徴的な産業に関する歴史研究に基づき、日本の他のエスニックとの比較、国際的な比較とともに海外への研究成果の発信を試みるものである。このような目的の下で、本研究では、第1に経済史的なアプローチをベースにした社会学、政治学、歴史学などとの学際的な議論、第2に日本の他のエスニック・ビジネスとの比較、第3に在米コリアン及び様々な先進国におけるエスニックのビジネスとの比較、の三つのアプローチをする。 韓国ソウル大学日本研究所主催の国際コンファレンス(2010年11月)での報告、「戦後在日韓国人企業の産業構造とダイナミズムの基盤:僑胞信用組合の役割を中心に」は、上記の第1に関する成果である。同学会では、在日朝鮮人の歴史学の議論、日本の「国籍」に関する政治学、社会学、文化人類学などの成果との議論を展開した。ビジネス展開の特徴及び歴史的動態は、在日韓国・朝鮮人の社会集団としてのあり方の結果でもあるが、それ自体を変えていく動力にもなり、経済史的研究の意義が確認された。ビジネスの実態は、他の学問と議論のなかで、時間に伴う同化が一概に進行しないこと、社会構造的に規定的、停滞的だけではない多様な側面をもっていること、経済活動の結果によって社会集団のあり方が変わることを示すものであった。 「在日韓国・朝鮮人ビジネスのダイナミズムと限界」(樋口直人編『在日外国人のエスニック・ビジネス-国籍別比較の試み-』世界思想社、2011年)は、上記の第2に対する成果である。在日韓国・朝鮮人は、他のエスニックに比べて自営業率が非常に高く、それは日本人に対しても際立った特徴であった。在日韓国・朝鮮人ビジネスが集中する産業は、歴史的に、日本産業構造に対してスピーディに対応するダイナミックな変化を示した。そのような特徴、ダイナミズムを作り出した基盤は、在日韓国・朝鮮人が歴史的に蓄積してきた西陣織物、水洗・蒸し業などの製造業やパチンコ産業に偏った情報を蓄積したこと、民族系金融機関の設立・成長など、コミュニティの機能であった。
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