本研究の目的は、「強い」ブランド態度の構造を明らかにし、その構築のための戦略を提言することであった。前年度までの研究によって、消費者のブランドに対する評価は、「機能性」「憧れ」「愛着感」の3つの因子から成り、このうち、悪いクチコミなどのネガティブな情報を参照すると、「機能性」や「憧れ」に対する評価は低下してしまう一方、「愛着感」の評価はほとんど変わらないことが示された。 それではなぜ「愛着感」は「機能性」や「憧れ」の評価よりも頑健なのであろうか。「愛着感」とは自己とブランドとのつながりであり、他の評価に比較して、主観に依存するためであろうと本研究では予測した。「機能性」や「憧れ」は客観的事実や他者の評価によって支えられているため、新しい事実の提示や状況変化によって影響されやすい。一方、「愛着」は自らの個人的経験や感情に基づくがゆえに、周囲の評価とは独立なのだろう。実験では、未知のブランドの広告を見てブランド評価をする場合と、実際に商品の実物を使用してからブランド評価をする場合で、悪いクチコミを読んだ後の態度の持続性を比較した。その結果、直接経験を通じて「愛着感」を形成した消費者のみが悪いクチコミを読んでも態度変化を起こさないということが分かった。 上記の実験を含めた3年間にわたる一連の研究結果は、いずれも「愛着感」に基づくブランド態度の頑健性を明らかにしており、新規にブランドの構築を目指す場合、「機能性」や「憧れ」よりも「愛着感」の評価を高める戦略が有効であることが示された。また、その際には直接経験の場を提供することが重要であることも示唆された。 自己とブランドの心理的つながりが重要であること自体は、既存研究においても議論されてきているが、本研究の成果は、その主張を実験によって証明することに成功し、また、製品の使用経験が重要な要因であることを明らかにした点であろう。
|