研究概要 |
本研究は、申請者がこれまで行ってきた新自由主義体制下で新たに形成される都市周縁層の空間的隔離と社会的排除に関する研究を、(1)社会集団内(米国不法移民、野宿生活者)分析から社会階層(本研究では、とくに、都市周縁層)分析へと深化させるとともに、(2)都市周縁層の社会的排除から社会的処罰・犯罪化への厳罰化に関する社会政策過程に関する国際比較研究を行ってきた。具体的には、国際都市と日本での3年間の継続調査をもとに、1)社会的排除から社会的処罰・厳罰化、2)都市周縁層の国際比較分析を行ったうえで、3)新自由主義国家の刑罰論的転回について社会学的な国際比較実証研究を加えてきた。 その代表的な成果として、本年度は、都市周縁層の国際比較分析の先端研究としてロイック・ヴァカンによる “Punishing the Poor:The New Government of Social Insecurity”(2008)の著作の検討を行ってきた。ヴァカンは本書の冒頭で、ここ数十年の先進諸国における新自由主義の支配的趨勢と刑罰政策との密接な結びつきを指摘している。とりわけ、次の6点①都市的な異質性への厳格な処罰、②厳罰体制への法改正と犯罪監視装置の配備、③メディアや専門家による都市不安へのデマゴーク、④都市周縁層のスティグマ化、⑤刑務所等矯正施設の民営化、⑥警察組織の拡大と強化(Wacquant,2008,pp.123-124)、の共通点がみられるという。その成果として、同じくヴァカン教授の主著である『Body and Soul』Oxford Pressの全訳を完成させ、出版にこぎつけたことは特筆に値する。同時に、現地調査も継続的に行ってきており、その成果をまとめていくことが次年度の課題となる。
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