本年度の研究内容は、大きく分けて実証的な課題と理論的な課題から整理することができる。南アフリカ社会に関する実証的な課題としては、警察改革の実態を、とりわけコミュニティ・ポリシング・プログラムに注目することから検討することを、カンボジア社会に関する実証的な課題としては、クメール・ルージュ特別法廷への市民参加を多角的に推進するNGOの活動を取り上げることから把握することを、それぞれ設定し、現地調査を行った。南アフリカでは、ダーバン・ケープタウン・ジョハネスバーグの3都市においてコミュニティ・ポリシング関係者から聞き取りを行い、いくつかのプロジェクトに同行した。カンボジアでは、二つのNGOによるアウトリーチ記録資料を閲覧し、それにもとづき「特別法廷の社会的受容」をテーマに現地研究者らと意見交換を行った。この結果、次年度の調査課題として、南アフリカのケースでは「南ア国民と移民との関係」に焦点をあてる必要性、カンボジアのケースでは「特別法廷の表象に関して、とくにカンボジア国内のマスメディアの報道の傾向」に着目する必要性、が明らかになった。これらは、現地における実態を、より一般化されたフレームのもとで比較・考察するために必要なステップである。また、理論的な課題であった「移行期正義に関する先行研究の整理」については、関連文献の批判的読解に加えて、International journal of Transitional justice誌(Oxford Univ. Press、2007年創刊)にこれまでに掲載された87論文に対する詳細な検討を行い、移行期正義分野の形成過程と、現在の理論的動向を把握した。
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