南アフリカでは、ケープタウンとジョハネスバーグにおいて、社会的資源の再配分をめぐる人種間・民族間の緊張関係に関する聞き取り調査を行った。ケープタウンではカラードとカテゴライズされる人々のうち、そのカテゴリーを否定し、先住民コイサンとしてアイデンティティ・ポリティクスを展開しているグループに注目した。ジョハネスバーグでは、アフリカ各地からの移民が集住するヨービル地区で、どのような社会秩序創出の動きがあるのか、コミュニティ・メディアの存在に着目し、ジンバブエ人研究者と共に共著論文を執筆した。 カンボジアでは、プノンペンにて、特別法廷の社会的受容を社会学的観点から分析することをテーマにしたワークショップを開催し、カンボジア・イギリス・シンガポールからの関連研究者と意見交換を行い、論集刊行へ向けた修正作業を進めた。また、ローカル・メディアの実証分析を継続し、体制側/反体制側の報道傾向が、特別法廷の正当性にどのような影響を及ぼしているか、検討した。 上記の実証研究を、従来の移行期正義分野における理論的展開に重ね合わせることで、「移行期正義プログラムの意図せざる結果」や「同プログラムの設定する目標とは異なる社会的効果」に対する考察が、十分に議論されてきていないことが明確になってきた。そこで、その知見をまず日本社会学会大会において報告し、関連研究者からのコメントを受けたうえで、なかでも社会学理論における社会運動論のフレームが、上記の問題を考察するにあたり有益であることを確認した。
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