研究概要 |
今年度は三本の論文を出版することができた.一つ目の論文においては,局所体上の(非特異だが)完備とは限らない多様体に対して,高次元類体論や Brauer-Manin 双対の理論を展開した.これは Spencer Bloch 氏, 斎藤秀司氏,Uwe Jannsen 氏らが(非特異かつ)完備な多様体に対して展開してきた理論の拡張である. 二つ目は宮坂宥憲氏との共著論文である.ここでは Greg Anderson により展開された p-進佐藤理論について研究を行い,ある種の代数曲線のヤコビ多様体上のテータ因子上にあるねじれ点の構造について数論幾何的な結果(一種の「明示的」Manin-Mumford 予想)を証明した.この問題についてはその後にも小林真一氏と共同で研究を進め,Anderson の理論を大きく進展させることができた. 三つ目は Bruno Kahn 氏との共著論文である.これは,半アーベル多様体を係数に持つ Milnor K 群(染川 K 群)を Voevodsky が構成したモチーフの三角圏における拡大群として記述したものである.この結果は代数的サイクルのなす群(高次 Chow 群やモチビック・ホモロジー群など)を染川 K 群で記述するというタイプの応用をもつ.また,この結果は体のモチビック・コホモロジーと古典的な Milnor K 群の間の同型(Suslin-Voevodsky の定理)に別証明を与える.また,この結果を解説した日本語のサーベイ論文も出版できた.なお,この結果はホモトピー不変性によらないモチーフ理論を展開する可能性を示唆するものであり,その方向での研究を Bruno Kahn 氏および斎藤秀司氏と進めている.そこでは,ホモトピー不変性を Weil 相互律に置き換えるという方法で,Voevodsky の「移送付き前層」の理論を拡張している.
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