研究課題/領域番号 |
22684002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
戸田 幸伸 東京大学, 数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (20503882)
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キーワード | 導来圏 / Donaldson-Thomas不変量 / OSV予想 |
研究概要 |
本年度は、3次元カラビ・ヤウ多様体上の1次元半安定層を数え上げる「一般化Donaldson-Thomas不変量」の多重被覆予想について研究した。この多重被覆予想が、Pandharipande-Thomasらにより導入された「安定対」の数え上げ不変量の母関数の強有理性予想と同値であることは、既に私が証明していた。この多重被覆予想の特別な場合として、3次元カラビ・ヤウ多様体上の曲線で高々nodeしか持たないものを考え、そこに台を持つ1次元半安定層の数え上げの多重被覆予想を考えた。この場合、台の曲線の被覆を考えて議論することで、多重被覆予想を滑らかな有理曲線上のtreeに台を持つ1次元半安定層の数え上げの多重被覆予想に帰着する事が出来た。後者の場合、例えばトーラス局所化等で具体的に計算できる場合が多く、応用としてこれまで知られていなかった様々な場合に多重被覆公式を証明する事が出来た。この台の曲線の被覆を考えるには技術的に困難な部分があるのだが、これを3次元カラビ・ヤウ多様体上の因子と1次元層の対のデータを考えることでクリアする事が出来た。 本年度は更に、超弦理論で予想されているOoguri-Strominger-Vafa(OSV)予想についても研究した。これはブラックホール・エントロピーと位相的弦理論の間の関係を予想するものであるが、現在のところ数学的な定式化は得られていない。私はDenef-Mooreによる150ページ位の物理の論文を読み解き、OSV予想と私が以前Bayer,Macri氏らと提唱した3次元代数多様体上のある種の半安定対象のChern characterの間の不等式の予想との間の関係を見出した。実際、後者の予想を仮定すると、Denef-Mooreの論文で予想されているある種の公式が数学的に定式化され、証明されることになる。その公式というのは3次元カラビ・ヤウ多様体上の2次元の層の数え上げと曲線の数え上げの間の関係式であり、前者はブラックホール・エントロピーに、後者は位相的弦理論と関連している。よって、我々が以前予想した不等式を証明する事がOSV予想を数学的にアプローチするための重要なステップであることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は以前から研究していて進展がなかった多重被覆予想に進展があった。技術的に困難だと考えていた論法を新しいアイデアで解決できたという点で、研究は順調であった。更に超弦理論で予想されている等式と、私が以前共同研究者と共に予想した不等式が関係しているというのは大きな驚きであった。これは当初の計画にはなかった新しい発見であり、よって当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では多重被覆予想に進展があったが、未だ曲線の台が高々nodeしか持たない場合に限っている。より一般の場合にはまだアイデアがない状態である。今後、より一般の場合で証明することを目指していく。また、OSV予想については数学的なアプローチは始まったばかりであり、例えばブラックホール・エントロピーに対応する2次元層の数え上げの具体的な計算についてはまだ何も結果が得られていない状態である。この2次元層の数え上げについては、まず5次超曲面として得られるカラビ・ヤウ多様体に対して具体的に計算する術がないか模索していく予定である。
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