研究課題/領域番号 |
22684002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
戸田 幸伸 東京大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (20503882)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 安定性条件 / 双有理幾何学 / 行列分解 |
研究概要 |
Bridgelandによって導入された三角圏の安定性条件の概念はDouglasによるパイ安定性条件の概念を数学的に定式化したものであり、その起源は弦理論にある。しかし近年はBridgeland安定性条件を用いて従来の数学に新たな視点、応用がもたらされると期待されている。安定性条件と双有理幾何学の関係もその一つであり、今年度はこの関係を明らかにした。まず、全ての2次元代数多様体の極小モデルプログラムがBridgeland安定性条件の壁越え現象で記述できることを示した。より詳しくは、極小モデルの各ステップに出現する代数曲面は元の代数曲面の連接層の導来圏の安定対象のモジュライ空間として実現されることを示した。安定性条件の空間には領域と壁の構造が存在し、壁を超えることによってモジュライ空間の端射線収縮が引き起こされることを示した。更に3次元代数多様体の場合には、ある種の複体のChern数の間のBogomolov型不等式予想を仮定した上で、同様のストーリーが極小モデルプログラムの最初のステップにおいて成立すことを示した。 これ以外に、次数付き行列分解の圏上のゲプナー型安定性条件の概念を導入し、幾つかの次数付き行列分解の圏上にこの様な安定性条件が存在することを示した。3次元5次超曲面の定義方程式の行列分解の圏の場合、この様な安定性条件はミラー対称性を通じてゲプナー点に対応すると考えられる。ゲプナー型安定性条件が存在するとDonaldson-Thomas不変量の間に非自明な関係式が誘導されると考えており、このアイデアを実現するのが今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
安定性条件と双有理幾何学との関係については何年か前にも取り組んでいた課題ではあったが、当時は技術的な困難があって研究が進展しなかった。今回の研究によってその技術的な問題点が解決され、満足のいく結果を得ることができた。また行列分解の圏の持つ対称性からDonaldson-Thomas不変量の間の関係式を導くというのは当初の計画にはなかったアイデアであり、今後の研究が更に進展すると考えられる。よって、現在までの達成度は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究で導入した次数付き行列分解の圏上のゲプナー型安定性条件の存在についてはほとんどの場合が未解決であり、より多くの場合にこの様な安定性条件を構築することが今後の一つの課題である。また、ゲプナー型安定性条件が構築されている場合でも、どの様な行列分解が半安定対象を与えているのかも多くの場合に分かっていない。これを明らかにするのも今後の課題である。ゲプナー型安定性条件が存在する場合、それについて半安定な対象のモジュライ空間を構築し、それらを数え上げる不変量を構築するというのは面白い問題であり、今後の課題である。
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