同次多項式が与えられると、その次数付き行列因子化のなす三角圏が構成される。この三角圏は、同次多項式が定義する射影空間内の超曲面の連接層の導来圏と密接な関係があることが知られている。今年度は次数付き行列因子化のなす三角圏の安定性条件について研究し、ある特殊な対称性を持つ「Gepner型安定性条件」の存在を予想した。これは5変数5次式の場合、それが定義するカラビヤウ多様体の弦理論的ケーラーモジュライ空間におけるGepner点の一般化であり、超弦理論の文脈からその様な安定性条件の存在が期待される。実際にその様な安定性条件が存在することを、多くの具体例で確認した。5変数5次超曲面の場合は未解決であるが、この場合にGepner型安定性条件が示されると行列因子化を数え上げるDonaldson-Thomas (DT) 不変量が構成できると考えられ、これは数学と物理両方にとって重要な不変量になると考えられる。 他に、今年度は3次元カラビヤウ多様体上の2次元層を数えるDT不変量についても研究した。S-双対性予想によるとこの様な不変量の生成関数は(ほぼ)ヤコビ形式になると予想される。しかし、この予想に関する数学的な結果はこれまであまり得られていなかった。問題点は、3次元カラビヤウ多様体内の2次元層には特異点が生じる可能性があり、その様な場合の不変量の計算が困難なことにある。今年度の研究で、3次元カラビヤウ多様体上の2次元層を数えるDT不変量の生成関数の双有理変換による変換公式を証明し、生成関数の食い違いがヤコビ形式で与えられることを証明した。これはS-双対性予想の間接的証拠を与える。更にこの結果を応用して、A型曲面特異点の点のヒルベルトスキームのオイラー数の生成関数がモジュラー形式になることを証明した。
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