研究課題/領域番号 |
22684004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野沢 貴也 東京大学, 数物連携宇宙研究機構, 特任研究員 (90435975)
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キーワード | ダスト(星間塵) / 超新星爆発 / 大質量星 / 可視赤外線観測 / 化学進化 / 超新星残骸 / 質量放出 / 星間衝撃波 |
研究概要 |
ハーシェル宇宙望遠鏡による超新星SN 1987Aの遠赤外線観測を行い、SN 1987Aから太陽質量の0.4-0.7倍に相当する低温ダストからの熱放射を検出した。この大量のダストの発見により、II型超新星がダストの主要な生成源である有力な証拠が与えられ、宇宙における固体物質進化の理解について重要な手がかりが与えられた。また、検出されたダストが超新星爆発時の放出ガス中で形成されたものであることを確かめるため、ダストからの熱放射を空間的に分解する観測をALMA Cycle0に提案し、採択された。 一方、Ia型超新星残骸ティコーとケプラーについてもハーシェルによる観測を行った。Ia型超新星では、爆発時の放出ガス中で多量の鉄のダストが凝縮すると考えられていたが、この観測から大量のダスト形成の証拠は確認できなかった。以前の我々のダスト形成計算においても、Ia型超新星爆発時に鉄のダストは形成されないと予測しており、この観測結果は我々の理論計算結果と多くの点で一致する。これら理論的・観測的研究から、Ia型超新星は星間ダストの主要な供給源ではないことが確定的となった。 さらに、II型超新星で形成される炭素質ダストのサイズや質量が、炭素原子ガスの付着確率や凝縮するダストの形状にどのように依存するかも調べた。その結果、ダストの形成量はこれら微視的な特性に依存しないが、形成されるダストの有効半径は、付着確率が小さいほど、またダストの形状が球形に近いほど小さくなることがわかった。爆発時に形成されたダストはその後リヴァース衝撃波により掃かれ、サイズが小さいほど効率的に破壊される。それゆえ本結果は、超新星から最終的に星間空間に放出されるダスト量を明らかにする上では、ダスト形成過程におけるこれら微視的特性の理解が不可欠であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究でこれまで遂行した理論的・観測的研究により、大質量星の重力崩壊の結果起こるII型超新星爆発、および白色矮星の熱核融合反応で起こるIa型超新星爆発でのダスト生成量の理解は飛躍的に進んだ。特に、ハーシェル宇宙望遠鏡によって発見されたSN 1987A中の大量のダストは、これまでの中間赤外線観測からのダスト量の見積もりよりも二桁以上も多く、超新星による星間ダストの供給過程を解明する上で極めて重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者らによって提案された「ALMAによってSN 1987A内の低温ダストを空間的に分解する」観測は、今夏その実施が予定されている。今後の研究ではまず、これらの観測データを即座に解析し、SN 1987Aの放出ガス中でのダスト生成量とダスト温度を明らかにする。また、ダスト形成理論を改良してSN 1987Aの超新星爆発モデルに適用し、上記の観測結果と比較して、II型超新星で形成されるダストの組成、サイズ分布、量に決着をつける。一方、light echoモデルを用いて大質量星の恒星風中でのダスト形成過程を探るため、ダストのストカスティック加熱を考慮したlight echo計算コードを完成させ、得られた結果を超新星や超新星残骸、大質量星の小規模爆発の赤外線観測データと比較することにより、これらの親星の性質や星周ダストの質量・サイズ分布を明らかにする。
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